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Novel

17

東方短編集 〜The Different Story

 #17 誰が為に少女は筆を執るのか

あなたは誰と聞いたら、 わたしは誰でしょうと、 そう答えるあなたは、 知っていたのかもしれない。 そうでしょう? いつだってあなたはそうだったじゃない。
風が清々しかった。 いつもの妖精の悪戯も今日くらいは許してやろう。 そんな気分にさせる風だった。 「……」 屋敷の扉という扉が開け放たれ、巡り巡る初夏の風が蹂躙していた。 ぱらぱらと風によって舞い上がる半紙に溜息をついて、彼女は何か上に置くものとか無かったかおもむろに立ち上がった。 その立ち上がり方はどこかおしとやかで、彼女を知らない人間であればどこかの箱入り娘か、と道を尋ねるかのような感覚で訊くだろう、 「……あら、珍しいですね」 「まあね」 彼女が縁側の方を見やる。 そこには日傘を差してくすりと笑う風見幽香の姿があった。 四季のフラワーマスター、風見幽香。 主な活動場所は太陽の畑で、どうやら花を操る能力を持っているらしい。 それ以外の事は"後々"訊こうと思っていたが、これは手間が省けたのかもしれない。 そう彼女は考えて幽香の方に向き直って正座した。 幽香は縁側で傘を畳んでおり、自身は書斎にいて、 縁側と書斎の畳の敷居を境に見立て、そしてその絶妙な位置が人間と妖怪の境目みたいだな、と思った。 「貴女、稗田阿求って言うのよね」 「ええ、それが私の名前です」 幽香の凜とした声が書斎に静かに響いて、溶ける。 書斎の日陰と縁側を照らす日向。境界は更に深まっていく。 「幻想郷縁起を書いてるんですってね」 「そうですね、今まさに書いてる途中ですね」 傘を畳み終って、半身だけ捻って彼女は阿求の方を向いてにやりと微笑んだ。 それが何をしているのか分からない阿求であったが、とりあえず良いことが起きる事はないだろうと思った。 妖精の悪戯ならまだ。しかし、得体の知れない妖怪に目を付けられると思うと今後どうしていこうかと思い悩むのであった。 「私の事は書いてるのかしら、それともまだ?」 「いえ、まだ書いてませんが……」 「そう、それなら良かったわ」 阿求に向けた笑みを、更に深く、口を吊り上げた攻撃的な笑みで表情を上書きする。 今後どうしていこうかと悩んでいた阿求であったが、今後という道すらないのではないかと錯覚してしまう。 「これから私の事を書きなさい」 「へっ?」 何を言っているんだこいつは。 そう思わざるえなかった。いくら幻想郷縁起が人間の読み物以上に知られていても、 元はといえば、『人間が妖怪に勝つための資料』なのである。 それなのに妖怪の彼女が自分の事を書けというのは一体どんな了見だろうか。 「そうねえ……。風見幽香は凄く強くて普通の妖怪とは桁違いに強い妖怪って書きなさい」 およそ叫び声に近い大きな声で。無茶苦茶な事を言ってきた。 これまで幻想郷縁起を編纂していく上で妖精や妖怪相手に話を聞いたり噂を聞いてきたが、こんなケースは初めてであった。 呆気にとられる阿求を尻目に風によって舞い上げられた半紙を手にとって、へえ、幽香は感心して目を細める。 「一番初めが妖精ってのはまあ気に入らないけど、およそ及第点ね。紫の前に私の事を書くこと。いいわね」 念押しされて、ほとんど脅しに近かったがそれを承諾することに至った。 元々寿命が短い上、今の世をあまり生きられないという事を知っていても命は命だ。 面倒なことになっちゃったな、と頭を抱えようとして縁側から目の前の机に身体を向ける。 「分かりました」 仕方ない、仕方ない、と自分に言い聞かせて、 気づいた時には幽香の姿が消えていた。 変わりに、夏の到来を喜ぶように太陽の光を浴びる向日葵の花が庭中を埋め尽くしていた。 彼女なりの感謝の気持ちなのだろうか。 阿求にしてみれば嫌味としか受け取れなかった。 そんな訳で、風見幽香について調べることになった。 そう、調べることになった。 「……少し待ってくれれば色々と質問出来たのですが」 はあ。と初夏の陽光を燦々と受けている向日葵を投げやりに見つめて、阿求は溜息をついた。 日陰で涼をとる自分からは幽香という存在は眩しくて、眩しくて。 まるで台風だ、と思った。 まるで大きな向日葵みたいだ、とも思った。 それはまさしく夏に輝く太陽の花のような存在で。 あんなに期待させられても私の方が困ってしまう。 何故ならば、幻想郷縁起はまだまだ完成する見込みなど無いからだ。 少なくとも知るべき事は、まだ沢山ある。 それが何なのか、おぼろげな記憶では筆を執ることもままならない。 阿求はもう一度向日葵に目をやって、これが夢じゃないかと確認した。 頬を引っ張ってみたら、勿論痛かった。これが現実か、と頭を抱える。 「風見幽香」 太陽の花の名前を呟いてみる。 いやマイナス思考になってはいけない。 元から風見幽香について、いやそれ以外のツワモノにも調査する予定であったのだ。 だからこれは来るべき順番が早まっただけ。 そう思うことにしよう。
◆   ◆   ◆
彼女は花を操る程度の能力を有してることから、人里の花屋に縁があるのではないか。 そう考えて阿求は早速花屋に向かい、風見幽香の事について訊いた。 訊いた結果によると、彼女は思っていたより感じが良いという事である。 礼儀があって、丁寧で、私もああいう女性になりたいわ。という花屋の答えには驚かざるえない。 もしかして風見幽香は二人いるのではないか、 もしかして風見幽香は双子ではないのか、 とても「凄く強くて普通の妖怪とは桁違いに強い妖怪って書きなさい」と自分で言うような妖怪とは思えない。 しかし、彼女はこの花屋によく通っているらしい。となると、この話はきっと本当なのだろう。 とても礼儀があるようには、思えないけども。 結局、花屋以外でも風見幽香について聞きまわったが目ぼしい情報は何も無かった。 たまに人里にやってきて、花屋に立ち寄って、消えているのだという。 私の屋敷にやってきたかと思えば、ふらっと消えるかのように。 彼女はある種の、自由奔放な生き方をしていると思えた。 例えば、博麗神社の巫女。 彼女は人にも妖怪にも縛られない。 彼女にとって全てが平等で、 彼女にとって全ては近くも、遠からずもない。 どこかふわふわしていて、浮いてる。 異変解決の理由もそうだ、彼女自身が何かしらのメリットが無ければ動かない。 紅霧も、春雪も、永夜も。彼女は大衆よりも自分自身を優先する。 それはまさしく自己中心的なのだが、あまりの自由奔放さに、嫌な印象を受けなかった。 それがやはり博麗神社の巫女のカリスマ性というものなのだろう。 風見幽香はそれに近いものを感じた。 あの屋敷で出会った一瞬で、ここまで考えるのは野暮なものかもしれない。 けれどあの一瞬より前に、彼女と会ったような気がしてならなかった。 それは、何時の事だろうか。転生する前の事などもう思い出せないのに。 けど感覚として残っている。その感覚だけは、覚えていたい。 「そうだ」 彼女の元に行くしか無い。 会って、話をして、そして書く。 妖怪の山とは反対方面の奥地。そこに太陽の畑はあった。 太陽の畑の名前通り、一面の黄色が阿求の視界を埋めた。 その黄色は全て向日葵であり、太陽のごとく輝いていて思わず溜息が出てしまった。 人里からここまで長い道のりを歩いてきたが、なるほど。これは歩いてきた甲斐があったというものだ。 辺りを見渡すと数多の妖精が日向ぼっこしていたり、向日葵の向きを買えて遊んでいて、そのあまりにも平和的な光景に、 ここに風見幽香がいる、という事を忘れてしまいそうだった。 自身の背より一個分大きな向日葵を掻き分けて、太陽の畑の中心に彼女はいた。 可愛らしい花の傘をさして、こちらに向かって風見幽香は微笑んでいた。 思えば、私が太陽の畑に入った時から彼女は待っていたのだろうか、 しかしそんな思いも掻き消すように、幽香は私の姿を見て開口一番に本題へ入るのだった。 「出来た?」 本当ならここで、ご機嫌ようなんて洒落た挨拶でもするのかもしれない。 初めから彼女のペースに乗られたままだったのだ。 「いえ、全然。だからこうして貴女の元に伺いに来た訳です。……ところで、」 幽香を見たときに感じた概視感。 それについて聞いてみるのもいいのかもしれない。 時間はまだあるのだから。 「以前に貴女と会った気がするのですが、覚えていませんでしょうか?」 「……」 阿求の問いに、風見幽香は微動だにしなかった。 寧ろ、先程よりも何かこう……。何を言ったらいいのか言葉を選んでるような、いや、警戒しているようにも見えた。 しかし阿求には警戒されるような事をしたつもりが無いので首を傾げるしか他無かった。 「えーっと……。私何か、変な事言ってしまいましたか?」 困惑気味に、わなわなと阿求は手を振り首を振った。 変な事を言った覚えは無いのだが、この妖怪を怒らせてしまっては何が起こるか分からない。 そもそも、長く生きた妖怪ほど大したことでは怒らないと思っていたが、その認識を改めるべきなのかもしれない。 長い時を生きる妖怪は大したことでは怒らない、但し風見幽香は例外。みたいな。 そんな戯言じみた考えすら出てきたところで、漸く幽香は口を開いた。 「いや全然、変な事は言っていないわ。全く以って、変な事など一切、ないわ」 良かった。怒っていないようだった。 怒っていたらどうしようかと思ったが、その心配も杞憂だったということだ。 しかし幽香の台詞に違和感を感じつつ、彼女は阿求の返答を待たずに続ける。 「そうね。確かに、阿求なら。稗田なら。可能性はあるのかもしれないわね。死んで、死んで、死んで、巡り、廻り、回って、それでも記憶する貴女なら。観測し続ける貴女なら。ならこれは幸運とも云うべき出会いなのかもしれないわ」 ……ん? 困惑が、思わず口をついで洩れそうになった。 そもそもとして、彼女が何を言っているのか分からなかった。 何か、違和感を伴う言葉。心臓がちくちくするような嫌な言葉。 体というよりは、存在全体で拒絶するような、言葉。 それを例えるなら、そう。……呪詛。 「えーっと、あの。幽香さん?」 これまで数々の妖精や妖怪を相手にしてきたが、この風見幽香。彼女は一体何者なのだろうか。 稗田なら?可能性?記憶、観測、出会い、それらに心当たりが無くて、全然無くて。 "絶対的に心当たりが無い"という奇妙な清清しさすら感じるのであった。 「良かった、私だけだと思っていた。嬉しいわ、凄くうれしい。何もかもを知っていて、それでいて知らない振りをするのは辛いものね。悔しくて、大変で、何も変えられなくて。けどそうでなければ廻らな──」 「幽香さん!!」 咄嗟、普段出さないような大きな声で叫んだ。 自分自身でもびっくりするくらい大きな声だった。 「──あ」 呪詛は止まり、違和感が止み、音が止んだ。 幽香を遮り、阿求はしまった、と思った。しかし取り繕う術も無い。言及されて不快だったからなんて言ったら一体どうなることやら。 いやそれよりも、ここは冷静に考えるべきではないだろうか。 こほん、と咳を一つついて、阿求は会話を試みる。 「あの、その、ごめんなさい。……多分、勘違いだと思います」 とても、鎌かけるつもりで言ったなんて言えない。 でもその返答はあまりにおかしくて、曲がっていて、歪んでいて。 けれどよく考えてみればおかしい。"会った事がありませんでした?"という質問にあまりの的外れな答え。 ここまで的外れだと妖精と話しているようにも思えてしまう。風見幽香は太陽の妖精でした、って冗談を思いついたが、言ったところで殺されるだろう。 「勘違い……?そうね、確かに。そんな事が在るわけが無いものね」 怒られると思ったが、阿求の意に反して幽香は素直に言葉を返すのだった。 寂しげに、目を閉じて、薄っすらと微笑む彼女。そんな幽香の姿を見て、少しだけ、ほんの少しだけ胸に響くものがあった。 罪悪感とか、困惑とか、色んなものが凝縮した、ちくりとした痛みに阿求は言いようも無い何かを感じたのだが、それすら蜃気楼のようにぼやけて染みこんだ。 「でも、幽香さんは心当たりあるのでしょうか」 「あるわ。遠い昔の事で、遠い未来の事で、貴女とこうして話すのは少しだけだったけれど、一瞬を何度も重ねた時間は幾重もの永い時へと形を変える」 「それはどういう──」 「知りたい?」 それは、嫌で、甘くて、嫌な響きで、甘美な響きで、 幽香の白く透き通る手が、阿求の眼前に差し出され、それを握ろうか、握らないのか考えて、 この突拍子も無い違和感と突然の場面に、心を惑わされ、徐々に、頭が真っ白に溶けて、ああ、私は握ってしまったのか、と考えて、 「    」 すべてがまっしろにそまった。
◆   ◆   ◆
思えば、全てが唐突で。 思えば、全てが思い通りで。 目標が出現すればそれを達成するだけの簡単なシーン。 切り抜かれた、場面。それは物語というよりは記録、結果を伝える為だけの映像。 そこに、山も谷もありはしない。あるのはただの経過。ここからあそこまでをまとめた、ただそれだけ。 だからそんなつまらない書物を落とすのは、ちょっとだけ恥ずかしかった。 いくら知識のある私だって、あんなものを必死で書いて、それを拾うものに託すなんて事、あまりにも無茶で。 思いの外、それは案外あっさりと。 思いの外、それは存外にあれよと。 つまるところそれは在るべきして、手にする者に与えられた宿命、と言えばいいのか。 いやそんな大層なものではない。これは、呪いだ。持つものに知らない現実を突きつけて苦しめる、ただそれだけの、もの。 けどそんなものを落とすのは、やはり、私が  であったからだろう。 後悔なんてする訳が無い、なんて無い。 どれもこれも都合が良過ぎるのだ。 これは既に結果であって、経過は存在していない。 これは既に経過であって、結果は存在していない。 どれもこれもが連続して、連続して、気持ちが悪い。 このお話は、これでお終い。 あのお話は、これでお終い。 でもきっと、このお話は始まっていない。 この後彼女は、一体どうなるかなんて。 春桜の彼女は何を思い、 太陽の彼女は何を思い、 吸血は、虹色は、深紅は、奇跡は、 そしてあの嫌な目をした彼女は、知らないのだから。 全てを知らず、 巡って、 廻って、 回って。 最後の最後まで知ることなく、 ただ、そう、在るがままに、 溶けて、 融けて、 解けて。 そして、また、変わることの無い、始点へと。 移り、映され、最後はせめて、素敵な夢を見れるように。 全てが解けて、消えて、また、廻る。 「――思い出した。」
◆   ◆   ◆
照りつける夏の日には、やはり冷たいものが恋しくなるものだ。 巷ではお菓子で氷精を(文字通り)釣って、涼を取ったりしているのだという。 一度はそんな面白そうな事をやってみたいと思うが、如何せん妖精に何度も悪戯をされている身としては、もう妖精はこりごりだ。 折角書き上げた書物に悪戯書きされたり、筆や紙を乱暴に扱われたり、留守なのを見計らって荒らし放題。 もう我慢ならないと、屋敷のいたる所に罠をしかけたのがいけなかったのだと今更になって思う。 屋敷に罠がしかけられ、思いの外簡単に引っ掛かる妖精たちは、一層興奮し、今度はどんな罠がしかけられているのか楽しみにやってくるのであった。 罠をしかけた身としては頭を抱える事態に、どうしたものかと悩み、そんな中、寺子屋の先生である上白沢慧音に指導をお願いしたりなど、それはそれは大変な夏の日の事であった。 「麦茶、要るかい?」 「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて。」 一通り書き終えて筆を置き、さあ休もうかというところで慧音が麦茶を差し出した。 訊くことによれば、この麦茶は妖怪にも美味しいと評判で、妖怪の山から、鴉天狗が度々飲みにくる程だという。 そこまでして飲みに行くより、山から出る湧き水の方が手頃で、冷えて美味しいと思うのだが、やはりそこは妖怪らしいというか、人間味溢れるというか。 そんな美味しいと評判の麦茶だが、楽しみにしてたのは私も同じである。休憩の際は慧音にお願いして貰いに行くほどだった。 「執筆の方はどうかな。」 「ええ、頗る快調です。慧音さんの麦茶で筆も早く進みます。」 「それはそれは。」 慧音がふと徐に阿求の書いた本を手に取る。 さらり、さらりと紙を捲り、「おお、これは」とか「なるほど」等と感嘆し、その本に魅入っていた。 彼女の反応にすっかり気を良くしたのか、阿求はくすりと笑って「今度、天狗にもお願いして印刷してもらうんです」と話し始める。 「色々な妖怪からああしろこうしろで、若干矛盾点とかあるのですが、そもそも人間と妖怪が共存し始めている今の幻想郷を見る限りにおいては、今までの幻想郷縁起より緩く、面白く書いてみました」 「私も紹介されているのか。なんだか恥ずかしいものだ。」 「慧音さんはほら、寺子屋の先生やってますし人里の中でも有名人ですから。」 「そ、そうか。そうなのか……。有名人かー……。っとあれ、これは。」 新しい幻想郷縁起を流し読みしていた慧音であったが、ふと気になるページがあったのか捲っていた手が止まる。 「阿求殿これは。」 差し出されたページは風見幽香のページであった。 阿求に手渡し、これはどういうことだと静かに目で訴えていた。 新しい幻想郷縁起に目を落とすと、そこには風見幽香に纏わる記録や、話が記述されており、これを見れば風見幽香がどんな妖怪なのか分かるといった具合だ。 「危険度がとんでもないことになっているが、彼女はそんなに危険な妖怪だったか?私の見る限りでは──。」 「彼女は危険ですよ。危険の危険。大変危険です。そこはまあ、何と言いましょうか。彼女、妖怪の賢者である八雲紫と互角に渡り合ったって訊きましたし。」 「ほう、そうなのか。幽香殿はあの紫殿と……。」 勿論、風見幽香からそんな事は訊いていない。 阿求が思うに、多分それはまだ起こっていないのだから。訊いたとしても「そうねえ、戦ったこと無いけど私の方が強いんじゃないかしら」なんて言う事だろう。 なのに、何故そんな事を知っているかと問われれば、それはまさしく知っているからであって。そこに理由なんて無かった。 強いて言うのであれば、一度見たものを忘れない程度の能力は転生という特別を省いてしまえば完璧であるという事であろう。 「それでは、幻想郷縁起が公開されるのを楽しみに待っていてくださいね。それまではお預けです。」 「そうだな、楽しみにしているよ。」 もし、これから先起こるであろう未来の事象を、事実を述べた時、それに対して何も知らない者は一体どんな反応をするのだろうか。 述べた通りの反応をするのだろうか、もしくは何か抑止力みたいなものが阻んで不自然な反応を示すのだろうか。 幽香の言葉に対して、違和感を感じたように。「知る」事を拒絶するような違和感を。私以外の者にもそんな不自然な反応を示すのか。 もしそうだとしたら、その違和感は一体何なのか。誰が生み出したものなのか、それとも。 「それではまた。これからまだまだ暑くなりそうだ。阿求殿も気をつけて。」 「ええ、お気遣いありがとうございます。後で涼みに寺子屋によっても宜しいでしょうか?」 「喜んで。生徒達も喜ぶだろう。」 それとも、それは何か意図的なものが絡んできているのか。 阿求は寺子屋へ帰っていく慧音の後ろ姿を見送って、感慨深く溜息をついた。 しかしまあ、なんというか。 何もかも思い出したとはいえ、何かこう、重要な局面での記憶が抜け落ちているような気がしてならない。 ただ自身の記憶を整理するに、この幻想郷が何度も廻っていることは理解できた。 阿求が終わり、阿十となり、そして幻想郷が終わり、そして始まり、阿礼から阿求へとまた廻っていく。 それは途方も無い時間であるのだが、何度も何度もこの幻想郷は廻っているのは分かった。 しかし、その廻り廻る上で、幻想郷の住民は廻る前の記憶が無く、リセットされた状態で幻想郷へとやってくる。 そうすればまた1から始まる幻想郷となり、矛盾も何も無いのであるが、今回ばかりはちょっと違うようだ。 廻り廻る前の記憶を思い出したイレギュラー。過去であり、未来を知った矛盾者。 それはつまり、これから先起こるであろう未来を知っているということになるのだが、どうやらそうはいかないらしい。 前の幻想郷と、今の幻想郷。たとえ結末が終焉であろうと、経過は全然違う道を辿ることもあるのだという。 多分それは、異変が起きたときに博麗の巫女が異変を解決するのか、白黒の魔法使いが異変を解決するのか、廻る度に色々な可能性を孕んでいるのだと、風見幽香は云っていた。 あまりのスケールの大きい、それでいて幻想郷の根幹の秘密に触れて自分の頭がどうにかなりそうであったが、 幽香から話を訊いて、抱いたイメージは、つまるところ幻想郷はやはり幻想郷だった。 今となっては、忘れ去られた者達の"永遠"の理想郷。と云うべきか。 「さて──」 考えたいことは沢山ある。 しかし、思い出したからと言って寿命が延びるわけではない。転生の準備をしなくていいという訳にはいかない。 転生したあともこの記憶が引き継がれるとは限らない。寧ろ引き継がれないと思ってもいいだろう。 ならば、今のうちに何かすべきではないだろうか。 イレギュラーとしての、イレギュラーなりの役割を。 阿求は静かにそっと、筆を執った。 知ったところで、何になるのだという問いに、今は答えられないけれども。 けど、きっと、知ることによって何か変わるというのならば。 私はその変わった世界を見てみたいのかもしれない。 何か、取り返しのつかない事があるならば、それを防ぐために。 幻想郷が幻想郷であるままに、私が私であるままに、 「八雲紫、貴女は一体。」
≫Next Stage...

 #誰が為に少女は筆を執るのか: あとがき 仙台産の影猫です。 仙台在住の影猫です。 そんな訳で阿求話が終わりました。 幽香との一連の絡みもまた違う話で書きたいと思います。 あと、やっと書きたいことというか、東方短編集っぽくなってきました。 そろそろ話の解説とかしてたらうっかりボロが出そうなので今回は短いですが、この辺で。 2011/3/18 09:33 東日本大震災で今日やっと水が出た。
 

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